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東京地方裁判所 昭和37年(行)31号 判決

原告 荒木庄次郎

被告 四谷税務署長

訴訟代理人 片山邦宏外 三名

主文

原告の請求を、棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、原告が昭和三二年度の所得税について申告しなかつたところ被告は原告の右年度の所得税につき、昭和三五年一二月七日付をもつて、所得金額を金四、二九四、二四〇円、所得税額を金一、五八八、一八〇円とする決定及び無申告加算税を金三九七〇〇〇円とする決定をし、その旨原告に通知したごと、原告が昭和三六年一月六日被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年七月二一日付をもつて、右決定の一部を取り消し、所得金額を金四、〇五九、二四〇円、所得税額を金一、四七四、一六〇円、無申告加算税額を金三六八、五〇〇円と変更する旨の決定をしたことは当事者間に争いがない。

二、被告は、右再調査決定が正当であることの理由として、原告は昭和三二年中に訴外寺島宗従より本件土地売買の仲介の報酬として金四、二九四、二四〇円を受領したが、右は所得税法第九条第一〇号の「雑所得」に当ると主張するのに対し、原告はこのような所得はなかつたと主張してこれを争つているので、この点について判断する。

成立に争いがない甲第一号証、乙第一号証、同第二号証、同第八号証(ただし、原告作成の再調査請求書の部分を除く。)、証人中原敏夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一ないし三、同第四号証、第五号証及び証人牧元一同中庭四八、同中原敏夫の各証言を宗合すると、次のような事実が認められる。すなわち、訴外寺島宗従は、昭和二九年ころより日本不動産株式会社に宅地購入のあつせんを依頼するとともに、知人の前田純宏にも適当な土地を探してくれるように頼んでおいた。他方財団法人聖ヨハネ修士会は、その所有にかかる本件土地の売却のあつせんを、金元国、佐瀬某らを通じて不動産業者の中庭四八に依頼し、同人はさらにこれを和田菊蔵らに依頼した。たまたまそのころ、不動産業者等を通じて右事実を知つた原告は、昭和三二年一一月二五日正午過ぎごろ、右前田及び山一不動産の松原某らとともに、日本不動産株式会社を訪れ、社長の牧元一に対し、右修士会の土地が売りに出されているが坪当り金四二、〇〇〇円くらいの価格で買い取らないかとすすめたが、牧はかねてから、本件土地を知つており、坪当り金四〇、〇〇〇円くらいの価格が相当であると考えていたので、その旨および売買価格の点で折合いがつけば買い取つてもよいが、売手側の責任者を連れて来てもらいたい旨述べたところ原告もこれを了承し、直ちに売手側の責任者と交渉するといつて別れた。ところが、原告は同日その足で和田菊蔵方を訪れ、売手側の仲介者金、中庭らと交渉した後、同人らとともに同修士会の理事ヴアイアル神父を訪ねて交渉したうえ、同修士会との間で、原告が買主となつて、本件土地を代金一七、一七六、九六〇円(坪当り金三二、〇〇〇円)をもつて買い受ける旨の売買契約を締結し、その旨の契約書(乙第八号証添付の売買契約書写の原本)を作成するとともに、手附金五、〇〇〇、〇〇〇円の支払のために同額の小切手を振り出して、これを同神父に交付した。そして、同日午後四時三〇分ころ、再び日本不動産を訪れ、社長の牧に対し、右売買契約書を示したうえ、坪当り金四二、〇〇〇円くらいの価格で原告から本件土地を買い取つてもらいたい旨述べたが、同社長は、原告の右のようなやり方に立腹するとともに、果して原告が真実本件土地を修士会より買い受けたものかどうか疑問があつたので、修士会の責任者と直接交渉して解決したい旨述べて、原告の申入れを断つた。そこで原告は売主側と交渉した結果、翌二六日、同修士会の顧問弁護士岸偉一の法律事務所に、買手側より前記寺島、牧、石川憲司(日本不動産の売買部長)、松原らが売手側より原告及びヴアイアル神父、金らが集り、同弁護士立会いのもとで話し合つた結果、同日、原告と修士会との間の前記売買契約を合意解除し、新たに右契約と同一内容の約定をもつて、寺島が同修士会より本件土地を直接買い受けることに話合いが成立したが、その際寺島は、もともと本件土地の価格を坪当り金四〇、〇〇〇円と考え、その価格をもつて買い取るつもりでいたので、原告が右のごとく、本件土地の売買から手を引き、寺島が直接修士会より本件土地を買い受けることをあつせんし、協力したことに対する報酬の意味で、右売買価格坪当り金三二、〇〇〇円との差額に相当する坪当り金八、〇〇〇円総額金四、二九四、二四〇円を原告に交付することを約した。そこで、右話合いの結果に基づき翌二七日午後三時ころ、再び関係者が岸弁護士の事務所に参集し、同所において、寺島と修士会との間で、本件土地の売買契約書(乙第一号証)を作成するとともに、寺島より修士会に支払うべき手附金五、〇〇〇、〇〇〇円は原告が同修士会に交付した前記小切手をもつてこれを支払い、その代り前記売買契約の合意解除に伴つて修士会より原告に返還すべき手附金五、〇〇〇、〇〇〇円を寺島が代わつて原告に支払うこととし、同日日本不動産の事務所において、寺島が原告に対し金五、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたこと、その後同年一二月一六日ごろ寺島は修士会より本件土地の所有権移転登記をうけると同時に、同修士会のヴアイアル神父に対し、売買代金の残額を支払い、原告に対しても前記金四、二九四、二四〇円を支払つたこと、金元国は、同神父より本件土地の売買のあつせんに対する謝礼として約金五〇〇、〇〇〇円の支払いを受けたほか、原告と交渉して、原告より昭和三三年二月七日金五〇、〇〇〇円を、同年三月一七日金一七五、〇〇〇円をそれぞれ受領したが、右以外に原告から金員の支払いを受けた事実はないこと等が認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果はにわかに採用しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。これらの事実を綜合すると、原告は、一旦途中で自ら本件土地を買い受けて転売しようとして失敗したいきさつもあるが、結局は本件土地売買の仲介者としての役割を演じたものであつて、昭和三二年一二月一六日、寺島宗従より本件土地売買のあつせんに対する報酬として金四、二九四、二四〇円の支払いを受けたものと認めるのが相当である。(牧元一が原告の依頼により原稿(甲第一号証)を書き、これに基づいて原告が作成して寺島に差し入れた四、二九四、二四〇円の受領証(乙第二号証)には「買受権を貴殿にお譲りした手数料として」なる字句があるが、原告と右修士会との間の売買契約は解除され、改めて寺島と同修士会との間に売買契約がなされたのであるから、これを本件土地の譲渡又は買主の権利ないし地位の譲渡とみることはできない。)次に、原告は、右金四、二九四、二四〇円は所得税法第九条第九号の「一時所得」又は同条第八号の「譲渡所得」に該当し、同条第一〇号の「雑所得」ではないと主張するが、同条第九号の「一時所得」とは同条等一号ないし第八号以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得のうち、労務その他の役務の対価たる性質を有しないものを意味し、労務その他の役務の対価たる性質を有するものを含まないことは、同条第九号の規定自体から明らかであるところ、前記金四、二九四、二四〇円は、前述のように、原告が寺島と修士会の間の本件土地売買のあつせんという役務の対価(報酬)として受け取つたものであるから、同号の「一時所得」に当らないことは明らかであり、また、原告は、本件土地を譲渡し又はその買主たる権利もしくは地位を譲渡したものでないこと前記認定のとおりであるから、右金員は「譲渡所得」にも当らないものというべきである。したがつて、原告の右主張は失当である。

してみると、右金四、二九四、二四〇円を原告の昭和三二年度における雑所得と認定し、原告が金元国に支払つた合計金二二五、〇〇〇円及び雑費金一〇、〇〇〇円を必要経費としてここを控除し、これによつて所得金額及び所得税額、無申告加算税額を算定してした本件再調査決定には、原告主張のような違法はないものというべきである。

三、よつて原告の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田島重徳 桜林三郎)

別紙物件目録〈省略〉

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